【発育期の野球投手におけるボールスピンの特徴】論文レビュー

発育期の野球投手におけるボールスピンの特徴

今回ご紹介するのは「発育期の野球投手におけるボールスピンの特徴」です。

この論文では

  • 投手における小中学生と大学生のボールスピンの違い
  • 球速と回転数の関係性

がわかります。

概要

まず研究論文の概要です。

本論文では、野球チームに所属している小中学生と大学生のオーバーハンド投球を比較。

初速度(ボールを投げ始めるときの速度)・回転速度(1秒間の回転数)や回転軸の角度といったデータを測定し分析しています。

また、投球ごとのばらつきを確認するために10球投げて測定しています。

結論

まずは結論です。

  • ボールの回転軸の角度(ジャイロ成分)について小中学生と大学生の間で大きな差は見られなかったが、小中学生の方がバラツキが大きかった
  • 球速や回転数については小中学生と大学生の間で差が見られた
  • 球速と回転数の間に強い関係性が見られた

ボールの回転軸の角度(ジャイロ成分)については、小中学生と大学生の間で大きな差は見られていません。

しかし、10球投球を行ったところ、身長や手の大きさやリリース時の指の使い方などの要因により小中学生の方が回転軸角度のバラツキが大きかったです。

また、小中学生と大学生の間で、球速や回転数について大きな差が見られ、球速が大きいほど回転数が大きいという結果も出ました。

リリース直前のボールへの力のかけ方の違いが、回転数や球速の差となったものと思われます。

試験結果(球速・回転数・回転軸)

試験結果についてです。

  球速
(km/h)
回転数
(rpm)
回転軸
(θ、φ、α)
小中学生 92.16 1,194 36.3、-36.0、61.3
大学生 121.68 1,890 30.4、-26.4、63.6
*θは迎角、φは鉛直成分、αは進行方向と回転軸との角度(90°-α=ジャイロ角度)

回転軸の考え方については下記が参考にしていただければと思います。

回転方向(spin direction)/解説やMLB平均などについて
回転方向(spin direction)とは?野球における投手投げるボールの球質を判断するうえで重要な回転方向。本記事では回転方向について徹底解説しています。また、MLB平均といったデータも公開しています。
回転効率(spin efficiency)/解説やMLB平均などについて
回転効率(spin efficiency)とは?野球における投手投げるボールの球質を判断するうえで重要な回転効率。本記事では回転効率について徹底解説しています。また、MLB平均といったデータも公開しています。

回転軸についての結果

回転軸について小中学生と大学生の間に大きな違いは見られませんでした。

しかし、10球投げる事による回転軸のばらつきは小中学生の方が大きく、大学生の方が回転軸が安定した投球ができます。

身長が低く手の大きさが小さい小中学生は特にばらつきが出やすかったため、体格的な要因があるといえそうです。

また、ボールをリリースする時の指の使い方といった細かな動作の違いも影響があると思われます。

球速、回転数についての測定結果

大学生の回転数の平均値は小中学生の1.6倍、球速の平均値は小中学生の約1.3倍であり、両者の間に大きな違いが見られました。

また、今回の測定で回転数と球速の間に大きな関係性があることも分かりました。

リリース直前のボールへの力のかけ方が球速の差となり、回転数の差につながったと考えられます。

球速と回転数の相関関係

本研究で示された興味深いデータとして球速と回転数の関係性があります。

球速と回転数の関連性

強い相関があり、関係性が非常に強いことがわかります。

これを具体的な数字に当てはめてみると下記になります。

球速
(km/h)
回転数
(rpm)
120 1,799
125 1,901
130 2,003
135 2,105
140 2,207
145 2,309
150 2,411
155 2,513
160 2,615

対して下記が2018年MLB平均の値です。

球速
(km/h)
回転数
(rpm)
149.6 2,262.6

二つを比較してみると、本論文の方が回転数が多めに出ています。

私なりに数式を調整してみたのが下記になります。

球速
(km/h)
回転数
(rpm)
120 1,681
125 1,778
130 1,875
135 1,972
140 2,069
145 2,166
150 2,263
155 2,360
160 2,457

最近では競技レベルが高いプロなどでは平均回転数などの情報が出ています。

しかし、中学生や高校生などの場合、どの程度の回転数が平均的なのかがわかりません。

上記の表の球速と回転数の関係を目安としていただくのが良いでしょう。

対象者及び実験方法

最後に試験方法を書いておきます。

今回の測定を行った人のうち小中学生は14人で、11~15歳(競技歴は半年~7年)、身長142~174cm、大学生は9人で19~21歳(競技歴は7~15年)、身長170~182cmでした。

平らなグラウンドからキャッチャーに向かってストレートを10球投げてもらい、キャッチャーまでの距離は大学生、中学生は18.44m、小学生は16.00mです。

ボールは、大学生は公認硬式球(重量145g、直径73.8mm)、中学生はB号軟式球(重量135g、直径70mm)、小学生はC号軟式球(重量128g、直径68mm)。

ボール表面上に約50個のポイント(印)を書きます

まとめ

もう一度まとめると

  • ボールの回転軸の角度について、小中学生と大学生の間で大きな差は見られなかった
  • 体格的な要因や細かな動作の違いにより小中学生の方がバラツキが大きかった
  • 回転数は小中学生と大学生の間で差が見られた
  • 球速と回転数の間に強い関係性が見られており、回転数の差はリリース直前のボールへの力のかけ方の違いによると思われる

です。

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