【風洞実験による硬式野球ボールの空力特性】論文レビュー

風洞実験による硬式野球ボールの空力特性

今回は「風洞実験による硬式野球ボールの空力特性」をご紹介します。

この論文では

回転軸の変化によるボールに加わる力の変化と変化量

がわかります。

概要

この研究は、回転軸の傾きの違いにより、どのような軌道の違いが生まれるかを検証するのが目的です。

回転するボールにどのような力がかかるかを測定し、かかる力からどのような軌道になるかを計算しています。

回転軸の傾きは、純粋なバックスピンボールを0°とし、進行方向成分を傾き角としています。

結論

結論は下記です。

  • ジャイロ成分(進行方向への傾き)が増えると落ち幅が大きくなり、横変化が出てくる
  • 傾きが90°になると(ジャイロボール)は左右変化がなく落ちる
  • ただし、ジャイロ成分が0~20°までは落ち幅は変わらず、左右変化だけ変わる

結果

球速144km/h、回転数2,100rpmでの回転軸と変化量のシミュレーション結果は下記です。

回転軸と変化量(トップ)
回転軸と変化量(サイド)
回転軸と変化量(捕手)

ジャイロボール(φ90°)は左右変化がなく、放物線を描き落ちる変化であることがわかります。

また、φが0°の時(純粋なバックスピン)は左右変化がなく、落ちにくい変化であることがわかります。

そして、φが増えると、投手から見て左の変化量が出てくることがわかります。

ただし、φ60°よりもφ30°の方が左変化が大きく、落ち幅が少ない事がわかります。

さらにφ0~30°までを細かく見たのが下記です。

回転軸と変化量(トップ)
回転軸と変化量(サイド)
回転軸と変化量(捕手)

φ0~20°までは落ち幅がそこまで大きく変わらないにもかかわらず、投手から見て左方向の変化量が変わっています。

なので、φ20°くらいまでのジャイロ成分はホップ量を保ちながら横変化を加えられる、面白いボールであることがわかります。

φと変化量(φ0との比較)の一覧は下記となっています。

φ
(°)
垂直下方向
(m)
横方向
(m)
180 1.65 0
150 1.6 -0.35
120 1.3 -0.15
90 0.9 0
60 0.3 0.15
30 0.14 0.31
20 0.03 0.13
10 0.01 0.07

実験方法

試験方法の紹介です。

実験装置

硬式野球ボールの中心に直径10mmのシャフトを通し左右にアクリル板を取り付けます。

さらに、シャフトの中に直径3mmのピアノ線を通し、アルミフレームとつなぎロードセルに載せ、これを風洞装置(風を発生させ風から受ける力を調べる装置)に入れました。

実験方法

進行方向に対して垂直な方向の回転を回転軸0°とすると、これが4シームのストレートに近い回転となります。

回転軸を30°ずつ進行方向に傾け、それぞれの状態に対し、風速を秒速32m/s(m/秒)~44m/sの範囲で2m/s変化させ、さらに回転数は1秒間に80回転から10回転に減らしていきました。

そして、抗力(進行方向に働く力)、揚力(進行方向と垂直上方向に働く力)、横力(進行方向の左右に働く力)の変化を測定します。

また、細かい回転軸の変化による力の変化を確認するため、回転軸の傾きが10°、20°の時も抗力、揚力、横力を測定しました。

さらに、測定した抗力、揚力、横力をもとに、18.44m先に投げた時の軌道計算を行います。

まとめ

もう一度まとめると

  • ジャイロ成分(進行方向への傾き)が増えると落ち幅が大きくなり、横変化が出てくる
  • 傾きが90°になると(ジャイロボール)は左右変化がなく落ちる
  • ただし、ジャイロ成分が0~20°までは落ち幅は変わらず、左右変化だけ変わる

です。

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