硬式野球ボールの縦スライダに関する流体力測定と飛しょう軌道解析
今回は「硬式野球ボールの縦スライダに関する流体力測定と飛しょう軌道解析」をご紹介します。
この論文では
- ジャイロボールの縫い目の違いによる加わる力と軌道の違い
- ストレートの縫い目の違いによる加わる力と軌道の違い
がわかります。
概要
研究の概要です。
研究では、松坂大輔投手(現・埼玉西武)が投げた縦スライダーの映像を解析し回転の様子を観察し、さらに、実際に回転したボールにどのような力をかかるか測定します。
これをもとに、18.44m先に投げた時にどのような軌道になるかを計算しました。
また、ストレートの縫い目による違いや、ジャイロボールの縫い目による違いを検証しています。
結論
結論は下記です。
- ジャイロボールは揚力が発生せず、重力によって大きく落下する
- ジャイロボールの空気抵抗は2シームの方が4シームよりも低い為、2シームの方が速く到達する。
- ジャイロボールは4シームの場合下向きの揚力がわずかに発生する
- ストレートは2シームよりも4シームの方が揚力が高いので落下が少ない。
結果
まずは速球です。

プロ野球レベルだと、Spは0.2をわずかに超えたくらいなので、図の点線の位置を見ると良いです。
4シームの方が揚力(CL)がわずかに高く、空気抵抗はわずかに低くなっています。
実際には空く抵抗は大きくなるようなので、実験誤差があるとみておいた方が良いでしょう。
続いてジャイロボールです。
この論文で言うU-typeは2シームジャイロ、X-typeは4シームジャイロです。

揚力や左右方向への力はほぼ0です。
空気抵抗は4シームジャイロより2シームジャイロの方が低くなっていますね。

測定結果より、18.44m到達時の各球種のデータを上記となるようです。

わかりやすく、軌道をグラフにした結果が上記です。
鋭い方は気が付いたと思いますが、いくつかツッコみどころがあります。
- ストレートにおいて4シームの方が空気抵抗が小さいという実験結果に反して、軌道シミュレーションでは2シームに後れを取っている。
- ジャイロボールにおいてt=0.508時点で4シームジャイロの方が、2シームジャイロよりも高い位置にある。
以上から、実験結果・表・グラフのつじつまが合っていないようです。
硬式野球ボールの縦スライダに関する流体力測定と飛しょう軌道解析の測定方法
次に測定方法です。
投球映像の解析
松坂大輔投手の投げたボールを、捕手の後ろから毎秒90コマの高速度カメラで撮影しました。
また、スピードガンで球速を測定しています。
風洞実験装置を使った加わる力の測定
この実験では、風洞実験装置を使って空気の流れをボールに加えました。
ボールには、直径10mmの中空軸(真ん中が貫通したシャフト)を埋め込み、ピアノ線を通してアルミ製の直方体のフレームに吊るします。
このフレームをロードセルと呼ばれる装置の上に置き、加わる力の変化を測定しました。 なお、ボールの回転時に、測定の精度を高めるため、ボールにくぎを打つなどしてバランスを保つようにしています。
そして、初速度や回転数、回転軸の方向を変えて、加わる力を測定し、測定結果をもとにボールの軌道を計算しました。
初速度は32m/s(115.2km/h)~44m/s(158.6km/h)の間で2.0m/s(7.2km/h)刻みで、1秒間の回転数は15~60までそれぞれ変化させます。
硬式野球ボールの縦スライダに関する流体力測定と飛しょう軌道解析のまとめ
もう一度まとめると
- ジャイロボールは揚力が発生せず、重力によって大きく落下する
- ジャイロボールの空気抵抗は2シームの方が4シームよりも低い為、2シームの方が速く到達する。
- ジャイロボールは4シームの場合下向きの揚力がわずかに発生する
- ストレートは2シームよりも4シームの方が揚力が高いので落下が少ない。
です。
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