シームシフトウェイク(Seam Shifted Wake)とは「縫い目が変化量に及ぼす影響」のことで、SSWと呼ばれています。
最近では、回転情報から変化量を推定する計測機器のラプソード2.0が知られるようになってきました。
ツールとしては有用なので利用することを強くおすすめします。
しかし「縫い目の影響」を完全に反映できないことが欠点として挙げられます。(ラプソード3.0から縫い目のズレを計測できるようになったようです)
こういった欠点を理解しておくためにも、縫い目の影響(以下SSW)を知っておくことは重要です。
そこで今回はSSWに関する情報をまとめてみます。
ナックルが揺れるのはシームシフトウェイク(SSW)
SSWの影響を考えやすいナックルボールを見ていきます。
ナックルボールのSSWは2010年以前に論文が出ています。
動画で解説していますので論文が苦手な方はご参考ください。
論文や動画を見て頂くとわかりますが、縫い目の位置によって力が加わる方向が変わってきます。
力を受けない場合は縫い目が左右対称となっていることがわかります。
対称の状態からズレるとSSWで力が加わることがわかります。
この微妙な縫い目の位置の違いが変化量に影響することで揺れるような変化に繋がります。
ホークアイからみるシームシフトウェイク(SSW)
その他の球種に関しては、MLBで公開しているホークアイのデータを見るとSSWが見えてきます。
上の記事にも書いてありますが、ダルビッシュの4シームと2シームのデータを見てみるとSSWがよくわかります。
上記のデータをわかりやすく表現してみました。
*方向の見方:右投手目線で0°が12時方向、180°が6時方向
*図の緑矢印が回転方向、赤矢印が変化方向
球種 | 回転方向° (緑矢印) |
変化方向° (赤矢印) |
イメージ | 差 |
4シーム | 25.9 | 19.8 | 6.1 | |
2シーム | 27.1 | 51.7 | -24.6 |
4シームも2シームも回転方向(緑色)に大きな違いはありません。
しかし、変化方向(赤色)が大きく違っています。
ボールの回転方向に比べ、4シームはホップ量が多い方向(or シュートしない方向)となっています。
2シームはシュート変化が大きい方向(or ホップしない方向)になっています。
シームシフトウェイク(SSW)を受けやすい球種
ホークアイのデータから球種ごとの回転方向平均と変化方向平均から差を出してみます。
SSWを受けやすい球種が見えてきます。
球種 | 回転方向° (緑矢印) |
変化方向° (赤矢印) |
イメージ | 差 |
4シーム | 31.3 | 25.7 | 5.6 | |
2シーム | 40.5 | 62.5 | -22.0 | |
カット | 359.2 | 332.1 | 27.0 | |
スライダー | 291.6 | 278.7 | -20.9 | |
カーブ | 227.7 | 227.7 | 0 | |
スプリット | 51.6 | 76.7 | -25.1 | |
チェンジ | 56.6 | 69.8 | -13.2 |
4シーム・カーブのSSW
表の見方を解説しながら説明します。
回転方向は31.3°なので真上方向から31.3°傾いているという事です。
変化方向は25.7°なので回転方向よりも5.6°分だけ真上方向に寄っています。
つまり、4シームの場合は回転方向よりもSSWでホップする方向に力を受ける傾向にあるという事がわかります。
ただ、他球種に比べると回転方向と変化方向の差は少なくなっています。
なので、4シームはSSWを受けにくい傾向であることがわかります。
カーブも同様にSSWの影響が少なくなっています。
カットやスライダーのSSW
表を見るとカットやスライダーは回転方向と変化方向の差が大きいです。
回転方向よりも横に曲がる力が大きく出るようです。
最近よく聞くようになったスイーパーもSSWを利用した変化球です。
2シーム・スプリット・チェンジのSSW
この3球種もSSWの影響が大きいです。
回転方向に比べシュート方向や落下方向への力が加わるようです。
4シームと2シームの縫い目の違い
実際のSSWの例として私が撮影した映像をご覧ください。
映像はドラフト2021阪神三位の桐敷拓馬で、回転軸が近くて変化方向に大きな違いが出る4シームと2シームを比較していきます。
回転軸にそこまで大きな差はありません。
先ほどの映像から回転軸と縫い目位置を再現した3Dモデルが下記です。
2シームの縫い目の動きを見ていただくと、下記図の赤線の部分に縫い目が長い時間位置していることがわかります。
同じような縫い目の位置が長い時間現れることで、同方向に力を受け続けますので、ある方向に変化しやすいというわけです。
この縫い目の位置を微調整することで、回転軸は同じでも変化方向が変わってきます。
ドラフトグレードでは上記のようなスロー映像から分析したデータを公開しています。
SSWは回転情報と縫い目の位置を元に機械学習予測モデルで推定しています。
下記は桐敷の4シームと2シームのデータです。
両球種を比較して頂くとわかりますが、緑色のMG(回転による変化量)はそこまで違いはありません。
しかし、SSWに大きな違いがある事で、MGとSSWを足したTOTALが大きく違っています。
SSWによって、4シームと2シームの違いが出ているという事がわかります。
縫い目の位置とシームシフトウェイク(SSW)
SSWの予測は難しいです。
参考になるのは下記の図です。
縫い目の位置と後流(空気の流れ)は上のようになっており、縫い目が空気の流れを邪魔することで、複雑な空気の流れを作り出します。
後流が下側に向く時は上側に力を受けているという事になります。
Θ=35°とΘ=55°でパッと見て縫い目に大きな違いはなさそうですが、力の向きは真逆となっています。
このように微妙な縫い目の位置で後流が変わってきます。
また、縫い目の位置が全く同じでも回転軸が違えば縫い目の通り方は変わるのでSSWは変わってきます。
なので推定は難しいです。
スピンチェッカーとは
そこでスピンチェッカーというツールを自作してみました
簡単に言うと、赤枠の回転情報を入力するとSSWを含めた変化量推定が出来るツールです。
計算によるSSW推定は複雑なので、回転軸・縫い目位置・変化量などのデータから機械学習によってSSWを予測しています。
詳しくはこちらをご参照ください。
シームシフトウェイク(SSW)とボールの違いによる影響
SSWはMLBとNPBのボールの違いによる影響もありそうです。
しかし、現時点でMLB球とNPB球の変化量を比較した論文は存在していません。
断片的なデータを見る限りは、NPB球の方が変化量が大きく出ています。
トラックマンとラプソードがあれば自分で検証してみたいんですけどね、、、
シームシフトウェイク(SSW)まとめ
以上がシームシフトウェイク(SSW)についてでした。
現時点でSSWを考慮した計測が出来る計測機器は限られています。
なので、高速カメラを使って実際の縫い目の状態を確認するのが有効だと思います。
リリースが撮影できるカメラについては下記をご参照ください。
また、人間の感覚は非常に優れています。
ご自身の感覚や、捕手・打者・コーチの意見も大事にすると良いでしょう。
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