ボールの違いについて/NPB・MLB(WBC)・KBO・アマチュアで比較

NPB球とMLB球の違いについて 解説

2021年、MLBの粘着物質問題によって「ボール変更したらどうか」という話題が出ていました。

気になるのはボールを変更する事への影響です。

そこで、今回はNPB球・MLB(WBC)球・KBO球・アマチュア球のボールの違いをまとめてみました。

*2023年WBCはMLB球を使用

計測結果/NPB・MLB・KBO・アマチュアの比較

実際にボールを買って計測してみることにしました。

MLB NPB KBO 六大学 BCボール

BCリーグ球はファールボールを頂いたので持っています。遊びで使用して汚れていますが。

購入して比較した結果をまとめると下記になります。

種類 重さ
(g)
直径
(mm)
縫い目高さ
(mm)
縫い目幅
(mm)
MLB 147.1 72.7 0.75 8.3
NPB 146.5 72.0 0.95 7.9
KBO 143.4 71.6 1.30 7.6
BCリーグ 149.1 72.8 1.25 6.8
六大学 146.8 72.0 1.35 6.3

NPBのボール規格によると、

  • 縫い目の高さ:0.9mm
  • 縫い目の幅:8.0mm

となっているのでNPB球は2011年から使用している統一球規格に沿った数値となっていることがわかります。

参考:2011年シーズンから使用する統一球について
参考:統一試合球に関する規則改正について

直径の違い

MLBボール直径

MLBボール直径

NPBボール直径

NPBボール直径

KBO球直径

KBO球直径

BCリーグ球直径

BCリーグ球直径

六大学球直径

六大学球直径

ネット上ではMLB球が大きいとの情報が出ています。

しかし、実際に計測してみるとボールの大きさ自体にはそこまで違いはなく、最大で1mmくらいの差となっていました。

私が持ってみて大きさの違いは感じられません。

重さの違い

MLB球重さ

MLB球重さ

NPB球重さ

NPB球重さ

KBO球重さ

KBO球重さ

BCリーグ球重さ

BCリーグ球重さ

六大学球重さ

六大学球重さ

ネット上ではMLB球が重いという情報が出ています。

しかし、重さ自体はKBO球がやや軽い程度でそこまで大きな差はありませんでした。

私が持ってみても重さの違いは感じられません。

BCリーグ球は遊びで使って汚れていたり用水路に落としたことがあるので、やや重くなっているのかもしれません。

縫い目の高さに大きな違い

MLB球縫い目の高さ

MLB球縫い目の高さ

NPB球縫い目の高さ

NPB球縫い目の高さ

KBO縫い目の高さ

KBO縫い目の高さ

BCリーグ球縫い目の高さ

BCリーグ球縫い目の高さ

六大学球縫い目の高さ

六大学球縫い目の高さ

注目したいのは縫い目の形状です。

縫い目の高さは縫い目を含めた直径から縫い目を含めていない直径の差から算出しています。

高さはMLB球が一番小さく0.75mmで、六大学球の1.35mmと比べると半分近くになっていることがわかります。

NPB球は0.95mmで、MLB球とそこまで差がありませんが、触ってみるとわずかな違いを感じ取れます。

なお、KBO球・BCリーグ球・六大学球は、MLB球やNPB球に比べ縫い目が高いのがはっきりと感じ取れます。

縫い目の幅に大きな違い

MLB球縫い目の幅

MLB球縫い目の幅

NPB球縫い目の幅

NPB球縫い目の幅

KBO球縫い目の幅

KBO球縫い目の幅

BCリーグ球縫い目の幅

BCリーグ球縫い目の幅

六大学球縫い目の幅

六大学球縫い目の幅

縫い目の幅については逆になっています。

MLB球やNPB球が広く、逆に六大学やBCリーグ球は狭くなっています。

KBO球は縫い目の高さが高いですが、縫い目の幅は六大学やBCリーグほど狭くなっていませんでした。

縫い目の形状に大きな違い

MLB球縫い目形状

MLB球縫い目形状

NPB球縫い目形状

NPB球縫い目形状

KBO縫い目の形状

KBO縫い目の形状

六大学球縫い目形状

六大学球縫い目形状

BCリーグ球縫い目形状

BCリーグ球縫い目形状

写真ではわかりにくいですが、

  • MLB球は縫い目がが低く幅が広い
  • 六大学球の縫い目は高く狭い

のがわかると思います。

皮の感触の違い

よく聞くのが、MLB球はパサパサして乾燥していて、NPB球はしっとりしている、という意見です。

あくまでも野球素人の私の感覚になりますが、全ボールを触ってみても違いはわかりませんでした(BCリーグ球は遊びで使っていたのでズタズタなので除外)。

ただ、ボールの表面にはロウが塗ってあり、砂でロウを落としているというのを球辞苑で見た記憶があるので、それをしないと違いが判らないのかもしれません。

ちなみにロウを落とす「もみ砂」は市販されていました。

ミズノ公式オンライン

なお、MLBでもロウを落とす作業は行われているようです。

下記の記事ではその砂の質の影響で滑りやすいという事が記載されていました。

日本人投手はWBC本番前に確認を!“砂で揉んだ”滑るボールに要注意。(鷲田康)
巨人からボルチモア・オリオールズに移籍した上原浩治投手(現ボストン・レッドソックス)のメジャー初マウンドは、

ボールの感触の違いがロウを落とす作業による違いなのであれば、対策は簡単そうなんですけどね。

以下追記

東北大学で実証実験を行った内容がこちらで公開されていました。

MLB球とNPB球で摩擦係数を計測したところ、MLB球の方が20%ほど低くなっていたようです。

皮の部分の方が差は大きく、縫い目部分もMLB球の方が滑りやすい結果となっています。

その為、データ的にMLB球の方が滑りやすいという事がわかりました。

論文はこちらで購入できるようです。

ボール形状の違いのまとめ

サイズ、重さについて大きな違いはありませんでした。

滑りやすさについては実証実験からMLBの方が滑りやすいようです。

ただ、それよりも縫い目の形状の違いが気になるところです。

次章で球質についての影響をまとめていますが、ボールによる変化量の違いは大きいです。

アマチュアで活躍して、プロで活躍できないというのが、意外にもボールの違いに順応できないから、というのはあるのかもしれません。

NPB球・MLB球・アマチュア球の変化量の違い

各ボールの変化量の違いを見ていきます。

MLB球とアマチュア球の違い

MLB球とアマチュア球の違いを見てみます。

幸運なことに、2021年の都市対抗中継中にトラックマン計測データの一部が紹介されていました。

そのデータとMLBのトラックマンデータの平均ホップ量を比較してみると大きな差があることがわかります。

  平均ホップ量
(cm)
2021MLB 40.8
2021都市対抗 46.5

基本的に競技レベルが上がるとホップ量が大きいという実験結果が出ています。

競技レベルがMLBの方が高いにも関わらず、ホップ量が6cmほど低く出ています。

もちろん、MLBの方が球速が速いのでホップ量が少なく出る傾向があるものの、それにしても大きな差です。

続いて私が実際に都市対抗で計測した数値と比較してみます。

下記は山田龍聖の4シームホップ量です。

  回転数
(rpm)
ホップ量
(cm)
私計測 2,360 51.1
都市対抗
トラックマン
2,365 61.7

私の計測は回転数や回転軸などからホップ量を計算しています。

計算式はMLBのホークアイデータから回帰式を導き出しているので、ホップ量はMLB球想定です。

(2019年前後の)ラプソード2.0と同じような結果が出ていることは確認済です。

対して都市対抗で紹介されたデータはトラックマンの実測値です。

私計測は実測値ではありませんが、ここまで大きく差が出るのは考えにくいです。

なので、この10cmほどの差はボールの違いによるところが大きいと思われます。

以上のように、MLB球とアマチュア球で変化量に違いがあるのは確実といえるでしょう。

NPB球とMLB球の違い

同様にNPB球とMLB球の違いを確認してみます。

こちらも幸運なことに、ヤクルトがホークアイデータを公開してくれました(現在は非公開)。

MLBのトラックマンデータと比較すると下記です。

  平均ホップ量
(cm)
2021MLB平均 40.8
2021ヤクルト平均 49.2

ヤクルト平均はMLB平均を大きく上回っています。

ヤクルト投手陣が優秀ということもありますが、それでもヤクルト平均がMLB平均を8cm以上も上回っているというのは差が大きすぎます。

ボールの違い以外には考えにくいです。

続いて私が実際に計測した数値と比較してみます。

下記は梅野雄吾の4シームホップ量です。

  回転数
(rpm)
ホップ量
(cm)
私計測 2,363 51.5
ヤクルト
ホークアイ
2,343 57.4

私の計測は2021年4月に行われた2軍戦です。

山田龍聖と同様に私の計測結果はMLB球想定のホップ量です。

対してヤクルトのホークアイは実測値です。

私計測は実測値ではありませんが、ここまで大きく差が出るのは考えにくいです。

この6cmほどの違いはボールの違いによるものと思われます。

NPB球・MLB球・アマチュア球の変化量の違いまとめ

以上からMLB球に比べNPB球やアマチュア球の方が変化しやすいのでは?という仮説が浮かび上がりました。

データをまとめてみると下記になります。

  山田龍聖
ホップ量(cm)
梅野雄吾
ホップ量(cm)
私計測
(MLB球想定)
51.1 51.5
ヤクルトホークアイ
(NPB球)
57.4
2021都市対抗
(アマチュア球)
61.7

そして変化量の大きさについては上記の表から

  • アマチュア球 > NPB球 >MLB球

という事が推測できそうです。

縫い目の高さもこの順番になっており、整合性はありそうです。

ただし、私計測はあくまでもMLB球の場合の「推定値」です。

なので、正確な違いをはっきりさせるのであれば、トラックマンを使用して検証する必要があります。

縫い目の高さと変化量

MLB球の縫い目の高さと変化量についての記事を見つけたので追記です。

縫い目の高さと変化量

出典:the athletic

横軸が縫い目の高さ、縦軸が変化量となっています。

0.0305インチは0.7747mmなので私が計測した0.75mmとほぼ一致しています。

注目すべきなのはシームの高さが高くなると変化量が大きくなり、ほぼ直線的に右肩上がりなのがわかります(サンプルは少ないですが)。

これを元に各球の変化量を計算して比較してみると下記になります。

種類 縫い目高さ
(mm)
変化量
(cm)
MLB(2019) 0.775 21.8
MLB(2018) 0.782 22.1
MLB(2017) 0.883 23.8
NPB 0.95 27.8
BCリーグ 1.25 38.1
KBO 1.30 39.9
六大学 1.35 41.6

MLB球とその他のボールは、縫い目の高さ以外にも幅や表面の抗力などの違いもあるので単純にこうならないとは思います。

しかし、違いはかなりありそうだなという事がわかると思います。

MLBがNPB球を採用したらどうなるか?

これはやってみないとわかりません。

しかし、変化量が多くなれば空振りが多くなると思われます。

また、スライダーは横変化量が大きくなると空振りが増えることもわかっています。

ただし、変化量が大きくなるという事は、ボールの軌道の違いが大きくなるということです。

最近では「ピッチトンネル」という言葉をよく耳にしますが、球種判断を遅らせることが重要かも?と言われています。

変化量が大きくなれば、軌道の違いがわかりやすくなり、球種判断が早くなる傾向になるでしょうから、打者にとっては打ちやすくなる可能性はありますよね。

その為、一概にどうなるということは現時点でわかりません。

ただ、ボールの違いによって変化量にも大きな差があるとすると

  • アマチュアで活躍してもプロで活躍できない
  • KOBで活躍していてもNPBで活躍できない
  • NPBで活躍していてもMLBでは活躍できない
  • MLBで活躍していてもNPBで活躍できない

という選手がいるのも、「ボールの違いによる変化量の違い」という要因は大きいのかもしれません(打者も投手も)。

そう考えると、ボールを変えることへの影響は大きくでてしまう場合もありそうです。

MLBはボールを変更するのであれば、変更後のボールの特性(反発だけでなく変化量への影響も含め)をよく理解した上で行う必要がありそうですね。

コメント

  1. Ww より:

    参考になりましたありがとうございます
    よくメジャーは縫い目が大きいとか変化量が多いボールとか
    球事態が重いとか聞いてましたけどやっぱりネットの話って宛にならないんですね

    滑るってのが割りと一番大きい違いなんでしょうかね
    ダルさんもツイートしてますしそこが一番ネックなんでしょうね

  2. こんこんちき より:

    科学的・合理的に分析してみようという考え方は評価しますが・・・解ってないないなと思われる部分もいくつか見られたので、野球をあまり知らない人なのかなと。
    そんな中で、「私が触っても分からない」ってのはいらないかなと思います。せめて「素人感覚では」くらいが無難かなと。だって、プロは1mmどころかその数十分の1の差で、バットもボールも「全然違う・合わない・作り直して」ってやってるんですから。

    飛行機や走行車両ほか、その1mm以下のちょっとした突起が制御の元となったり、それが要因で壊れたりしてきた歴史もある。野球も100マイルを超える投球と打球の世界。どれだけ影響が大きいか、もう少し感覚を鋭く分析した方がいい。

    私は日米問わず「スポーツ科学・分析における権威」と言われる人間が、一ファンから失笑を買うような研究論文を発表してきた歴史をたくさん見てきましたから、特に気になるんです。コアなファン(知識層に限る)というのは、そのプロよりも野球を知ってますからね。選手ってのは「自分の体で具現化する能力が優れてる」というだけで、知識・研究・分析においてはファンの方が上。それはあらゆる今のプロスポーツ界での「経験のない人間の指導・分析におけるコーチング」が当たり前になってる事からも解ります。(以下略)

    • hiro より:

      ご指摘感謝致します。

      皮の感触に関する部分について「あくまでも野球素人の私の感覚になりますが」を追加させて頂きました。
      私自身、以前はものつくりの分野で製品開発を経験していましたが、部品調達にも携わっていました。
      その際、いわゆる職人さんと接する機会が多くありましたが、彼らは数千分の1mmを識別するほどの感覚を持っていました。
      おそらくプロ選手もこういった感覚をお持ちなのでしょうね。

      「経験のない人間の指導・分析におけるコーチング」、これはおっしゃる通りです。
      「野球素人の私」ですが、実際にラプソードを使った指導やアドバイスをする機会があり、アマチュアトップ選手を現場レベルで見れる機会を頂いています。
      また、こういった情報を公開している事もあり、複数球団のNPBアナリスト・スカウト、野球関係企業の方からお問い合わせを頂きやりとりする機会もあります。
      なので、まさに私自身も実感しているところです。

      野球素人で知識不足な面は多々ありますが、少しでも野球界に貢献できるよう、有益な情報が届けられるよう、努力していきたいと思っています。
      今後ともご指摘や気になる点などありましたら、ご遠慮なくコメント頂けますと幸いです。

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