ここ最近、MLBの粘着物質問題によって「ボール変更したらどうか」という話題が出ています。
なぜ日本では滑り止めは使われないのに、MLBでは使われるのか?
— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) June 6, 2021
ボールに問題があるってMLBはわかってんのにお金のためかずっと滑りまくるボールを提供してくる。
わかってるんやからそっちを先にどうにかしましょう
MLB、投手の滑り止め粘着物質の取り締まりを今月中旬に https://t.co/PoWOrLgppy
気になるのはボールを変更する事への影響です。
そこで、今回はNPB球・MLB球・アマチュア球のボールの違いをまとめてみました。
形状について実際に計測した結果
ネット上の情報が信用できないので、実際にボールを買ってみました。
- NPB球:https://amzn.to/3cWXvLj
- MLB球:https://www.mizunoshop.net/f/dsg-679197
- 六大学球:https://www.mizunoshop.net/f/dsg-707883
また、BCリーグ球はファールボールを頂いたので持っています。
遊びで使用して汚れていますが(笑)

結果が出たらここに更新します。
【追記】
さっそく購入しました。

購入して比較した結果をまとめると下記になります。
種類 | 重さ (g) |
直径 (mm) |
円周 (mm) |
縫い目高さ (mm) |
縫い目幅 (mm) |
MLB | 147.1 | 72.7 | 228.3 | 0.75 | 8.3 |
NPB | 146.5 | 72.0 | 226.1 | 0.95 | 7.9 |
BCリーグ | 149.1 | 72.8 | 228.6 | 1.25 | 6.8 |
六大学 | 146.8 | 72.0 | 226.1 | 1.35 | 6.3 |
円周について




円周については直径から計算しています。
ボールの大きさ自体にはそこまで違いはなく、1mm以内の差となっていました。
私が持ってみて大きさの違いは感じられませんでした。
重さについて




BCリーグ球は遊びで使って汚れていたり用水路に落としたことがあるので、やや重くなっているのかもしれません。
それでも重さ自体の違いは最大で2.5gほどで、私が持ってみて違いは感じられませんでした。
縫い目の高さに大きな違いが




注目したいのは縫い目の形状です。
縫い目の高さは縫い目を含めた直径から縫い目を含めていない直径の差から算出しています。
高さはMLB球が一番小さく0.75mmで、六大学球の1.35mmと比べると半分近くになっていることがわかります。
NPB球は0.95mmで、MLB球とそこまで差がありませんが、触ってみるとわずかな違いを感じ取れます。
なお、BCリーグ球と六大学球は、MLB球やNPB球に比べ、明らかに縫い目が高いのがはっきりと感じ取れます。
縫い目の幅に大きな違いが




縫い目の幅については逆になっています。
MLB球やNPB球が広く、逆に六大学やBCリーグ球は狭くなっています。
おそらく、縫い目の締め付け強度によりこの幅が決まるのでしょう。
MLB球やNPB球は締め付け強度が弱いため、高さが出ないで広さが出ているのだと考えれます。
逆にBCリーグ球や六大学球は締め付け強度が強く、高さが出る代わりに、狭くなっているのでしょう。




写真ではわかりにくいですが、六大学球の縫い目は高く狭くなっているのがわかると思います。
皮の感触
よく聞くのが、MLB球はパサパサして乾燥していて、NPB球はしっとりしている、という意見です。
残念ながら、私が触ってみてどのボールも違いはわかりませんでした(BCリーグ球は遊びで使っていたのでズタズタなので除外)。
ただ、ボールの表面にはロウが塗ってあり、砂でロウを落としているというのを球辞苑で見た記憶があるので、それをしないと違いが判らないのかもしれません。
ちなみにロウを落とす「もみ砂」は市販されていました。

なお、MLBでもロウを落とす作業は行われているようです。
下記の記事ではその砂の質の影響で滑りやすいという事が記載されていました。

ボールの感触の違いがロウを落とす作業による違いなのであれば、対策は簡単そうなんですけどね。
ボール形状の違いのまとめ
サイズ、重さについて大きな違いはありませんでした。
感触については「もみ砂」の違いによる影響があるのかもしれません。
ただ、それよりも縫い目の形状の違いが気になるところです。
次章で球質についての影響をまとめていますが、ボールによる変化量の違いは大きいです。
アマチュアで活躍して、プロで活躍できないというのが、意外にもボールの違いに順応できないから、というのはあるのかもしれませんね。
NPB球・MLB球・アマチュア球の変化量の違い
各ボールの変化量の違いを見ていきます。
MLB球とアマチュア球の違い
MLB球とアマチュア球の違いを見てみます。
幸運なことに、2021年の都市対抗中継中にトラックマン計測データの一部が紹介されていました。
そのデータとMLBのトラックマンデータの平均ホップ量を比較してみると大きな差があることがわかります。
平均ホップ量 (cm) |
|
2021MLB | 40.8 |
2021都市対抗 | 46.5 |
基本的に競技レベルが上がるとホップ量が大きいという実験結果が出ています。

競技レベルがMLBの方が高いにも関わらず、ホップ量が6cmほど低く出ています。
もちろん、MLBの方が球速が速いのでホップ量が少なく出る傾向があるものの、それにしても大きな差です。
続いて私が実際に都市対抗で計測した数値と比較してみます。
下記は山田龍聖の4シームホップ量です。
回転数 (rpm) |
ホップ量 (cm) |
|
私計測 | 2,360 | 51.1 |
都市対抗 トラックマン |
2,365 | 61.7 |
私の計測は回転数や回転軸などからホップ量を計算しています。
計算式はMLBのホークアイデータから回帰式を導き出しているので、ホップ量はMLB球想定です。
(2019年前後の)ラプソードと同じような結果が出ていることは確認済です。
対して都市対抗で紹介されたデータはトラックマンの実測値です。
私計測は実測値ではありませんが、ここまで大きく差が出るのは考えにくいです。
なので、この10cmほどの差はボールの違いによるところが大きいと思われます。
以上のように、MLB球とアマチュア球で変化量に違いがあるのは確実といえるでしょう。
NPB球とMLB球の違い
同様にNPB球とMLB球の違いを確認してみます。
こちらも幸運なことに、ヤクルトがホークアイデータを公開してくれました(現在は非公開)。
MLBのトラックマンデータと比較すると下記です。
平均ホップ量 (cm) |
|
2021MLB平均 | 40.8 |
2021ヤクルト平均 | 49.2 |
ヤクルト平均はMLB平均を大きく上回っています。
ヤクルト投手陣が優秀ということもありますが、ヤクルト平均がMLB平均を8cm以上も上回っているというのはボールの違い以外には考えにくいです。
続いて私が実際に計測した数値と比較してみます。
下記は梅野雄吾の4シームホップ量です。
回転数 | ホップ量 | |
私計測 | 2,363 | 51.5 |
ヤクルト ホークアイ |
2,343 | 57.4 |
私の計測は2021年4月に行われた2軍戦です。
山田龍聖と同様に私の計測結果はMLB球想定のホップ量です。
対してヤクルトのホークアイは実測値です。
私計測は実測値ではありませんが、ここまで大きく差が出るのは考えにくいです。
この6cmほどの違いはボールの違いによるものと思われます。
NPB球・MLB球・アマチュア球の変化量の違いまとめ
以上からMLB球に比べNPB球やアマチュア球の方が変化しやすいのでは?という仮説が浮かび上がりました。
データをまとめてみると下記になります。
山田龍聖 ホップ量(cm) |
梅野雄吾 ホップ量(cm) |
|
私計測 (MLB球想定) |
51.1 | 51.5 |
ヤクルトホークアイ (NPB球) |
– | 57.4 |
2021都市対抗 (アマチュア球) |
61.7 | – |
そして変化量の大きさについては上記の表から
- アマチュア球 > NPB球 >MLB球
という事が推測できそうです。
ただし、私計測はあくまでもMLB球の場合の「推定値」です。
なので、正確な違いをはっきりさせるのであれば、トラックマンを使用して検証するといいでしょう。
MLBがNPB球を採用したらどうなるか?
これはやってみないとわかりません。
しかし、変化量が多くなれば空振りが多くなると思われます。
下記の記事では4シームについて調査していますが、ホップ量が大きくなればなるほど空振りが増えているのがわかります。

また、スライダーは横変化量が大きくなると空振りが増えることもわかっています。
ただし、変化量が大きくなるという事は、ボールの軌道の違いが大きくなるということです。
最近では「ピッチトンネル」という言葉をよく耳にしますが、球種判断を遅らせることが重要とされています。
変化量が大きくなれば、軌道の違いがわかりやすくなり、球種判断が早くなる傾向になるでしょうから、打者にとっては打ちやすくなる可能性もあります。
その為、一概にどうなるということは現時点でわかりません。
ただ、以上のようなデータを見ると、NPBで活躍していてもMLBでは対応できない選手やその逆がいるのも、「ボールの違いによる変化量の違い」という要因は大きいのかもしれません(打者も投手も)。
そう考えると、ボールを変えることへの影響は大きくでてしまう場合もありそうです。
MLBはボールを変えるのであれば、変更後のボールの特性をよく理解した上で行う必要があるでしょう。
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