本記事はラプソード2.0についてのご紹介です
投手用は「ボールの回転数・回転軸などの回転情報を計測して変化量を推定する機器」です。
トラックマンのように弾道を計測する機器ではありませんので、変化量については誤差が出てしまう仕様となっています。
それでも回転数や回転軸などが容易に計測できますし、変化量も推定ではありますが十分参考になる内容です。
なので、野球選手の技術力向上の一助になるツールであることは間違いありません。
私自身も積極的に活用していくべきツールの一つだと思っています。
そこで今回はラプソードの詳細を解説していきます。
ラプソード2.0はピッチングとヒッティングがある
ラプソード2.0には投手用の「ピッチング」と打者用の「ヒッティング」があります。
順番にご紹介します。
ピッチングの特徴
ピッチングでは
- 球速
- 回転数
- 回転軸
- 変化量
- リリース情報
- 投球コース
がわかります。
下記のダルビッシュの動画を見ていただくと、どういう感じで使用しているのかがわかります。
計測結果の詳細はこちらで解説します。
ヒッティングの特徴
ピッチングでは
- 打球速度
- 打球回転数
- 打球角度
- 打球方向
- 飛距離
- 投球コース
がわかります。
下記の動画を見ていただくと、どういう感じで使用しているのかがわかります。
計測結果の詳細はこちらで解説します。
ラプソード2.0で計測されるデータの解説
ピッチングのデータ
詳細はこちらのマニュアルでご確認ください。
ここでは主な項目を解説します。
球速
赤枠は球速が表示されます。
おそらく通常のスピードガンと同じ仕組みで初速を計測していると思われます。
画像の単位はmphですがkm/h表示に切り替える事も可能です。
回転軸
赤枠は回転軸です。
SPIN DIRECTIONは回転方向を表しており、回転の傾きを表しています。
時計の短針で回転方向を表すのが浸透しています。
回転方向についての詳細は下記ご参照ください。
GYRO DEGREEはジャイロ角度で、ボールの進行方向と回転軸が直角の状態を0°としています。
90°の場合はボールの進行方向と回転軸が一致するジャイロ回転となります。
ジャイロ角度は次に説明する回転効率や有効回転数に影響してきます。
回転数・回転効率・有効回転数
赤枠では回転数に関する情報が出ています。
TOTAL SPINは回転数で、単位はrpmなので1分間当たり何回転するかという数字です。
最近よく聞く回転数とはこれのことです。
SPIN EFFICIENCYは回転効率と呼ばれ、ボールの回転をどのくらいの効率で変化量に反映出来ているか? を表した指標です。
画像だと35%なので、回転数の35%だけがボールの変化量に影響しているという意味です。
TRUE SIPNは有効回転数と呼ばれ、回転数×回転効率で計算します。
画像の例だと 回転数1985 × 回転効率34.65% = 有効回転数688 となります。
画像では回転効率が35%ですが、四捨五入されているようです。
ちなみにジャイロ角度90度のジャイロ回転の場合、回転効率は0%となるので有効回転数は0となります。
回転効率や有効回転数に関する詳細は下記ご参照ください。
変化量
赤枠は変化量が表示されます。
設定で日本語表示が可能で、VERTICAL BREAKは縦変化量、HORIZONAL BREAKは横変化量です。
グラフの十字の部分は縦変化量、横変化量0の原点です。
この原点はボールの回転による力を受けなかった場合で、重力によって自由落下した場合のボールを基準としています。
そこから回転によってどれだけ縦に変化し、横に変化したのかを、変化量と定義しています。
詳しくはこちらの動画の冒頭をご覧ください。
また、変化量については注意点があります。詳しくはこちらをご覧ください。
リリース情報
赤枠はリリース情報ですが、REREASE ANGLEとHORIZONTAL ANGLEはいまいちピンと来ていないので公式の解説を書いておきます。
- REREASE ANGLE:ボールが手から離れたときの角度
- HORIZONTAL ANGLE:投球がが左(-)または右(+)から手から放たれたかの平角
RELEASE HEIGHTは地上からのリリースポイントの高さです。
RELEASE SIDEは投手プレートの中心を基準としたリリースポイントの横幅です。
サイドスローの場合はリリースポイントが低くなり横幅が大きくなります。
投球されたボールの軌道
赤枠は投球されたボールの軌道を表す3Dモデルです。
赤線が投球されたボールの軌道、赤点線がボールの回転の影響を受けなかった場合の軌道です。
ヒッティングのデータ
詳細はこちらのマニュアルでご確認ください。
ここでは主な項目を解説します。
打球速度
赤枠部分は打球速度です。
おそらく通常のスピードガンと同じ仕組みで打撃直後の速度を計測していると思われます。
打球速度は飛距離を決める一つの大きな要素で、速ければ速いほどいいです。
ただし、打球速度だけでなくこの後説明する打球角度との組み合わせも重要です。
画像の単位はmphですがkm/h表示に切り替える事も可能です。
回転情報
赤枠は回転数と回転方向です。
回転数は気にする必要はありませんが回転方向は重要です。
回転方向が12時に近い(バックスピンに近い)方が揚力をが大きくなるので飛距離が出ます。
打球角度
赤枠は打球角度です。
打球角度は飛距離を決める一つの大きな要素ですが、小さすぎても大きすぎても飛距離は出ません。
また、最適な打球角度は打球速度によっても変わってきます。
最近では得点に繋がりやすい打球速度と打球角度の組み合わせをバレルゾーンと呼んでいます。
こういった指標を意識してデータを見ると良いでしょう。
飛距離
赤枠は飛距離と3Dモデルの打球軌道です。
飛距離は打球速度・打球角度・回転情報から推定で出ているようです。
室内での練習でも飛距離が出るので重宝するでしょう。
飛距離はm単位で表示を切り替える事が可能です。
ただし、飛距離についてはピッチングの変化量同様に注意点がありますのでこちらをご参考ください。
ラプソード2.0の注意点は変化量が推定である事
冒頭でも書きましたが、ラプソード2.0を使う際の注意点として知っていおいてほしいのは、変化量が推定であるという事です(ヒッティングの場合は飛距離)。
トラックマンやモーキャプで検証しましたが、回転軸の方向や変化量にはシステマティックな誤差が含まれていました。吐き出されたこれら数値は、(私にとって)投手の能力を評価するには不十分なものになっています。ですので、独自の補正プロブラムを走らせ、数値を変換して使っているのが現状です。 https://t.co/MYWPYb49y4
— 神事 努 (@TsutomuJinji) October 16, 2018
上の神事さんのツイートを見ると、ラプソード2.0単体では不十分で、ラプソード2.0で計測した数値に補正を掛ける必要があるという事を言っています。
さすがにこれだけだとわからない方も多いと思いますので、詳細を解説していきます。
ラプソード2.0とトラックマンの違い
先ほども書きましたがラプソード2.0は回転軸などの回転情報から変化量を推定しています。
トラックマンは回転数やボールの軌道(変化量)を計測し回転軸を推定します。
ラプソード2.0とトラックマンを比較すると下記です。
ラプソード2.0 | トラックマン | |
球速 | 実測 | 実測 |
回転数 | 実測 | 実測 |
回転軸 | 実測 | 推定 |
変化量 | 推定 | 実測 |
なので、変化量に関してはトラックマンの方が正確です。(精度は不明です。)
ラプソード2.0は変化量を推定しますが、神事さんが言っているようになぜ補正が必要なのでしょうか?
ラプソード2.0はMLB球想定に近いようで違う
一つの大きな要因は「ボールの違い」です。
私は自分でスロー撮影した映像から変化量を算出していますが、MLB球想定で行っています。
2019年あたりのラプソード2.0のデータを見ると、私の計算結果と似たような数字となっているので、MLB球想定だったことがわかります。
神事さんのように日本で計測を行う際にはボールの違いによって変化量の差が出てしまいます。
なぜ変化量に差が出るのかというと、NPB球とMLB球で縫い目の高さに違いがあったり、皮の質が違ったりしているためのようです。
上の記事のように断片的なデータからボールの違いによって大きく変化量が変わってくることが見えてきました。
なので、MLB球を想定した推測値のラプソード2.0と実測のトラックマンで変化量に誤差が出てしまうというわけです。
ただ、私が調べた感じだと変化量算出のアルゴリズムが大きく変わっているようでした。
実際に調査してみたデータが下記です。*球種は4シーム
日付 | ラプソード計測 | Drivelineツール | 私の推定 | URL |
|||
横変化 | 縦変化 | 横変化 | 縦変化 | 横変化 | 縦変化 | ||
2019.11.30 | 27.3 | 39.0 | 24.6 | 43.7 | 22.9 | 40.4 | |
2020.9.2 | 18.6 | 48.3 | 16.3 | 50.9 | 14.2 | 47.8 | |
2020.11.29 | 18.1 | 51.3 | 14.5 | 52.0 | 13.2 | 50.3 | |
2022.8.27 | 21.0 | 50.2 | 25.9 | 45.8 | 25.8 | 43.9 | YouTube |
2022.8.27 | 27.0 | 44.4 | 27.7 | 43.5 | 27.1 | 41.4 | |
2022.8.27 | 27.7 | 48.1 | 27.2 | 46.0 | 27.8 | 44.9 |
Drivelineや私の変化量推定はMLB球想定です。
2021年以前のラプソード2.0は、私の変化量推定と比較し、縦変化量がほぼ同じで、横変化量がラプソード2.0の方が大きく出る傾向でした。
また、Drivelineの変化量計算ツールとの比較では、ラプソード2.0の方が横変化量が大きく、縦変化量が小さめに出る傾向でした。
2022年のデータは最新のラプソード3.0ですが、明らかに変化量の傾向が変わっています。
Drivelineや私の変化量推定と比較し、大きめに出ていた横変化量が小さくなり、Drivelineや私の変化量推定に近くなっています。
逆に縦変化量はDrivelineや私の変化量推定よりも大きくなっていることがわかります。
つまり、2022年8月27日時点でのラプソード3.0は
- 縦変化量が大きく出やすい
という結論になります。
そのため、ラプソード3.0のデータとMLB選手のデータを比較することはあまり無意味の無い事だとわかります。
ラプソード2.0は横変化量がMLB球よりも大きく出るので、こちらも単純にMLBデータと比較するのはやめた方が良いでしょう。
ラプソード2.0は縫い目の影響を考慮できない
NPB球に計算式を寄せたとしてもどうしても誤差が出てしまう要因があります。
それは縫い目による影響でシームシフトウェイク(SSW)と呼ばれています。
The following is the same FB, measured on both Rapsodo & Trackman.
They have comparable release height, spin and velocity.
Rapsodo read this pitch as a bad sinker
Trackman read this pitch as an elite demon sinkerNeither was a misread.
Who can answer what happened? pic.twitter.com/nvG1Z8iviH
— Ben Brewster (@TreadAthletics) February 7, 2021
最近の研究やデータから縫い目が変化量に与える影響が大きいのでは?という見解が強くなってきました。
MLBで公開しているホークアイのデータを見るとSSWが見えてきます。
上の記事にも書いてありますが、ダルビッシュのデータを見てみるとSSWがよくわかります。
詳しくは割愛しますが(知りたい方は記事参照)、4シームもツーシームも回転軸に大きな違いはありません。
しかし、変化方向が大きく違っています(回転軸:hawkeye_measured、変化方向:movement_inferred)。
ボールの回転方向に比べ、4シームはホップ量が多い方に、ツーシームはシュート変化が大きい方向になっていることがわかると思います。
これがSSWです。
回転情報から変化量を推定する場合、この縫い目の影響までを完璧に推定することが出来ません。
ちなみに、私の変化量計算はホークアイのデータから回帰式を得ています。
球種によって回転軸と変化量の差に傾向があるので、球種ごとに計算式を変えることで出来るだけ縫い目の影響を盛り込むようにしています。
ラプソード2.0がどういう補正をしているかわかりませんが、同様に球種を自動検出して、球種別に計算式を変えているのではないかと思っています。
しかし、それでも縫い目の影響を完全に再現できるわけではないので、変化量に関しては参考程度に見ておく必要があるでしょう。
計測誤差がある
それ以外の要因として神事さんも言われているように回転数・回転軸の計測誤差もあります。
私もラプソード2.0を使いながらスロー撮影してみて違いを比較したのですが、投球によって誤差が大きくなる場合がありました。
おそらく計測環境(太陽光の状態、影、傷、汚れ)による影響もあるのだと思います。
また、設置位置や初期設定(キャリブレーション)などでも誤差が出てしまう要因となります。
今後のアップデートで実測になる可能性も
ラプソード2.0の変化量は推定ですが、実は実測値も計測しているようです。
ラプソード2.0の元データを見るとわかりますが、変化量のデータが4種類あるのがわかります。
- VB (trajectory)
- HB (trajectory)
- VB (spin)
- HB (spin)
VBはVERTICAL BREAKなので縦変化量、HBはHORIZONAL BREAKなので横変化量です。
trajectoryは「軌道」という意味なので軌道からの実測値と思われます。
spinは「回転」なので回転情報からの推定という意味だと思います。
ラプソード2.0の画面で表示される変化量は「spin」の方が表示されています。*1
もしアップデートによって「trajectory」が実用性に耐えられるような結果が出るのであれば、推定値から実測値への表示に切り替わるかもしれません。
*1:2024年12月15日追記:現在は横変化量が「trajectory」、縦変化量が「spin」で表示されています。
という可能性があるので下記のようなツイートをしてみたわけです。
楽しみな投手です
しかし、ラプソードの変化量の算出方法がアップデートされたんですかね?
元から表示されている144km/hと投球後の149km/hで回転軸・有効回転数に大きな違いはないですが変化量が大きく違います。
推定→実測になったのでしょうか。 https://t.co/H9g5qWAC0t— ひろ@ドラフト候補調査隊 (@yuki_scope) February 9, 2022
ラプソード2.0の原理・仕組み
ラプソード2.0の原理をざっくり解説しておきます。
球速はスピードガン
球速の計測はスピードガンです。
なので、一般的なスピードガンと精度はそう変わらないと思いますが、やや速めに出ることを言及している方もいます。
研究発表の続き。ラプソードとスピードガンの表示速度の差をちゃんと測ってみたと言うものです。体感で10km/hの差があると思っていたことがちゃんと示されました。なんとなくわかっていることをハッキリさせるというのも大事なことですね。#高校野球 #ラプソード #スピードガン #課題研究 #山形東 pic.twitter.com/zJ0UPDk7ZM
— 山形東高校野球部Noball【公式】 (@yama_NoBall) February 6, 2022
ラプソード2.0だけの話ではないですが、球速に関しては参考程度に見ておいた方が良いでしょう。
最近では球場ガンとトラックマン表示の差が出ていることがわかっています(トラックマンの方が正確のようです)。
NPB2021シーズン
球場別ストレート平均球速 pic.twitter.com/VjybEJtM3g— aozora (@aozora__nico2) November 13, 2021
球場によって球速差が出ている理由として、球速表示にトラックマンを採用しているか否かが影響しているのがわかります。
映像ではなく画像を撮影して解析
ラプソード2.0をスロー撮影してみた映像が下記になります。
写真をパシャパシャ撮影しているのがわかります。
映像だと解像度を上げるのは難しいので精度的な問題があるのかもしれません。
回転数・回転軸の計測は縫い目のパターンマッチングから計測
ラプソード社によっていくつか特許を出願していますが、回転情報の計測に関する特許も出願されています。
どうやらボール縫い目のパターンを検出し、どう動くかによって回転数や回転軸を推定しているようです。
日本の論文を検索すると縫い目のパターンから計測器を利用して回転数や回転軸を計測する方法がすでに行われていたことがわかります。
私の回転軸計測も、上記論文の計測器の考え方を参考に、3Dモデル上で縫い目のパターンをマッチングさせることで計測を行っています。
ラプソード2.0の価格
そんなラプソード2.0の価格は下記です。
ピッチング | ヒッティング | insight |
|
製品 | 71.5万円 | 71.5万円 | 38.5万円 |
サブスク | 年8.25万円 | 年8.25万円 | 未定 |
ピッチングやヒッティングは71.5万円です。
データをクラウド上に保存して閲覧できるサブスクは年8.25万円です。
ラプソード2.0と接続できる高速カメラのinsightは38.5万円です。
購入は基本的に代理店から購入する必要があります。
ラプソードの公式に問い合わせると代理店を紹介されるようです。
ただ、安く仕入れたい場合は中古という選択肢もあります。
下記あたりで出品があるようです
しかし、それでもなかなか個人では手が出ない金額です。
個人で利用したい場合は次に説明するレンタルか練習施設を活用するのが良いでしょう。
ラプソード2.0のレンタル
レンタルはいくつか調べてみたところ下記のような金額でした。
期間 | 送料 | 金額 | 1日あたり | |
siegsports | 2日 | 別 | 20,000円 | 10,000円 |
タカラボ | 1週間 | 別? | 33,000円 | 4,714円 |
B1 | 1週間 | 別 | 33,000円 | 4,714円 |
1週間のレンタルで3.3万円が標準のようです。
2日間で2万円というところもありました。
チームであれば1週間レンタルして複数人の計測をするならコスパは良いですね。
個人での使用の場合はやや高いです。
なので個人の方は施設や計測会を利用すると良いでしょう。
ラプソード2.0を使える練習施設
ラプソード2.0を使える施設は増えています。
多すぎるので紹介は割愛しますが、下記あたりの施設をご自身で調べてみると良いでしょう。
- 野球教室
- バッティングセンター
野球教室では1回の計測当たり数千円となっているので、コスト的にも活用しやすいと思います。
まとめ
ラプソード2.0を練習に取り入れることは非常に有効なことです。
投球や打撃における重要な数値を計測することで、現在の自分の立ち位置を客観的に把握できます。
つまり、ご自身の目指す目標と自分が今いる現在地との距離が数値としてわかるという事でもあります。
その差がわかる事で何をすれば良いのかが明確になります。
なのでまずはご自身のデータを計測する事が第一歩です。
そして日々の改善を計測機器でチェックしながら方向性が合っているのかを確認しながら練習ができます。
PDCAが回せるという事ですね。
しかし、計測機器も万能ではありません。
誤差や特徴をしっかり把握したうえで、練習に取り入れるのが良いでしょう。
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